9 翔べ!ガンダム
今回のテーマはズバリ「戦う理由」である。アムロもホワイトベースも、元から戦う理由がよくわからないままただ「走れ」と言われて走り続ける終わりなきマラソン状態なのだが、前回ではさらにそこに「戦争って、いうても未亡人つくってるだけやん」という根本のツッコミが入ってしまった。アムロもホワイトベースも、戦う理由を失っている。今回もあまりの情報の濃さにかなり解説が長くなってしまう。
結局アムロはなぜ戦っているのか
これが実はわかるようでわからない。一応今までの説明で行くと、アムロが「ガンダムに乗る」理由は次のいずれかおよびその複合だと推測できる。
①とにかく自分が死なないため。戦わないと殺される。
②乗組員や民間人の命を守るため。
③連邦政府を勝利に導くため。連邦政府のため。
④連邦政府が掲げる大義名分=イデオロギーのため。
⑤なんだかんだでガンダムというロボットにメカ好きとして惹かれてしまっている。
まあ、そりゃ①のために戦っているに決まっているのだが「戦わないと殺される」にしたって「戦う」ということは「それがいつかわからないが殺されにいく」ということと同じであり、要するに「殺されないために殺されにいく」というのと同じだろう。「この戦いを生き延びれば.....」という戦いならまだわかるが、今日戦って勝ったらまた明日も戦い、休息も取れない、それがいつまで続くかわからないとなると、そりゃアムロじゃなくたって病むに決まってる。
②についても、こっちは民間人の命を助けるために命かけてるっていうのに、その民間人はというと、自分たちのことしか考えておらず「早くおろせ」とわがままぶっこくし、その上アムロに対して「年寄りの気持ちは若者にはわからない」だの「母親でないからあなたにはわからない」だのさんざんな言いようである。
③はそのはずなのだが、当の連邦政府からは支援も連絡もほぼないし、今回描かれるように「まあなんか活躍してくれたら儲けもんか」「あ、戦闘データだけいただくな」っていう、もう完全モルモット状態。「活躍しているうちはホワイトベースも正規軍と同じ扱いをする」と言うのだが「同じ扱いをする」ということは「正規軍だと認めてはいない」の言い換えでしかない。「活躍する間は正規社員と同じものとみなす」と言われても非正規雇用は嬉しくないだろう。
それでもジオンが悪で連邦が正義なら、イデオロギーに殉じることで「戦う理由」が得られるだろうけど、それこそ前回一回を使ってまるまる否定したことだった。「どちらが勝っても負けても私のように夫を亡くす人はこれからも大勢出るんでしょ?」というペルシアのセリフの後では、ガンダムの活躍シーン、そのすべては「未亡人の大量生産現場」にしか見えなくなる。戦争に大義もへったくれもあったものではないのだ。
となると、⑤の「メカ好き」しか「戦う理由」がない。しかし、さすがにこれだけではアムロだって命はかけられない.....長くなってしまったが、以上のような「ないないづくし」の地点から今回の話は始まる。
では一体アムロが戦うのはなぜなのか。アムロがガンダムに乗る理由。戦う理由。結論から言うとそれは「シャア」だ。順に説明していく。
アムロよりブライトのほうが戦う理由がわからない
アムロの話からしてしまったが、戦う理由がないのはブライトも同じだ。ガンダム搭乗を拒否したアムロはそれだけでなくさらにブライトまで問いかける。
アムロ:ブライトさんは何で戦ってるんです?
ブライト自身にも実はもう戦う理由なんてとっくに残っていない。というのも、その直前で上司のリード中尉から「生き抜くだけなら簡単だよブライト君」「ホワイトベースを捨てりゃあいいんだ」とまで言われているからだ。
食事も弾薬も尽きかけているホワイトベース。連邦政府からは「勝手にやってくれ」でほとんど何の支援も命令もなし。民間人からはここでいいから早くおろせと言われ、上司からは「ホワイトベースなんか捨てりゃいいだろ」とまで言われれば、もうマジで何で戦ってるのかわからない。
ブライト:うっ...今はそんな哲学など語っている暇はない!
「哲学」という言葉でごまかしたが、もうガチで「回答不能」。つまり「理由が本当にない」のである。なんならブライトからしたらそれでもアムロが「がんばりましょう!」と言ってくれれば「クルーの期待を裏切るわけにはいかん」という理由にできるのだが、そのエースパイロットのアムロからして「もういやだ」と言ってくるとなれば、いよいよブライトは「これってむしろゴネてるのはアムロやリードではなく自分だけ?」となる。それなのにアムロは
アムロ:そんなにガンダムを動かしたいならあなた自身がやればいいんですよ
などとまで言う。ブライトが二度もアムロを殴る気持ちは痛いほどわかる。
ブライト:殴ってなぜ悪いか? 貴様はいい そうしてわめいていれば気分も晴れるんだからな!
ガンダムのパイロット=アムロにはまだ「搭乗拒否」という選択肢が一応はあるが、艦長(ほぼ)代理のブライトにはそれすら不可能。アムロの心が折れてもゲームオーバーではないが、ブライトの心が折れたらその時こそがゲームオーバーだから、ブライトには「投了する」ことすら許されていないのである。
https://gyazo.com/01694ba87dcdac225ad0cc361818e633
アムロ:うっ 2度もぶった! おやじにもぶたれたことないのに
ブライト:それが甘ったれなんだ 殴られもせずに一人前になったやつがどこにいるものか!
ブライトはブライトのことを「一人前」だと思っているだろうから、これはアムロへの説教に見せかけたブライトの「ぼくだって!」。自己開示である。ある意味、アムロ以上に精神的に追い詰められてしかるべきなのがブライトだ。
理由はシャア
そしてここからはノンストップの会話劇である。あっという間の展開すぎて、フツーに見ててもその一瞬の切り替わりにまともな視聴者は一切ついていけないだろう。長くなるが重要な箇所なのでそのまま引用する。
アムロ:もうやらないからな!誰が二度とガンダムなんかに乗ってやるものか!
フラウ:アムロ! いいかげんにしなさいよ しっかりしてよ 情けないこと言わないでアムロ
ブライト:俺はブリッジに行く アムロ今のままだったら貴様は虫けらだ それだけの才能があれば 貴様はシャアを超えられるやつだと思っていたが...残念だよ
アムロ:シャア? ブライトさん!ブライトさん!
フラウ:アムロ ガンダムに操縦方法の手引書ってあるんでしょ?
アムロ:え?
フラウ:私ガンダムに乗るわ 自分のやったことに自信を持てない人なんて嫌いよ "今日までホワイトベースを守ってきたのは俺だ”って言えないアムロなんて男じゃない! 私...
アムロ:フラウ・ボゥ...ガンダムの操縦は君には無理だよ
フラウ:アムロ...
アムロ:悔しいけど...僕は男なんだな うっ シャアめ!
最後の「僕は男なんだな うっ シャアめ!」がアムロがガンダムに乗る最終的な理由のようだ。が、これもこれだけではよくわからない。「男だから」ガンダムに乗るのだ、戦うのだという話のように見えるし、まさか女性のフラウに戦わせることなんてできない!というのが決起の理由のようにも見せている。が、一連の流れを見直すとどうやらそれらの理由は「デコイ」のようだ。
ブライトに2度も殴られ虫けらとまで呼ばれ「もう二度と乗らない」と大見え切ったその地点から、たった30秒そこらで「ブライトさん!ブライトさん!」になったのはなぜか。この時点でアムロはフラウをなんと手で押しのけている。アムロにとってフラウは最初から眼中になんかないのである。
アムロの気持ちを切り替えさせたもの、それはフラウではなく「シャア」という男の名前、たった三文字だった。(むしろここでのフラウは「アムロにとって女がいかにどーでもいいものか」という描写のためにぶっこんできているように思う)。
じゃあ、なぜ「シャア」が「戦う理由」になるのか。それを説明しないと最終的に説明になっていない気もするのだが、でも、逆にここは「それくらいの男なのだ、アムロにとってシャアとは」と捉えるしかない。そういうものとしてシャアを描いていく、そういう重みをもって今後シャアを見てくれ!ということだと理解するべきだろう。
ここでのガンダムが作劇上すごいのは、アムロにとって「シャア」という3文字はアムロが命をかけるほどのものなのに、シャアはアムロの名前すら知らないということ。シャアめ!と口にしてアムロが戦いに行く相手が当のシャアではなく、ガルマというザコだってことだ。あれだけウダウダしといて戦う相手ガルマやねん。
フラウはアムロを理解する気がない
フラウが食事の呼びかけに行くと、アムロはベッドで横になっている。食欲もなさそうだ。
アムロ:サイド7を出てからこっち ぐっすり眠ったことなんかありゃしない / そのくせ眠ろうと思っても眠れないしさ
それでもアムロに話しかけ心配して声をかけるフラウだが、眠りたいけど眠れない.....と言ってる人の真横でピーチクパーチクする様はあまりに無神経である。
アムロ:うるさいなあ!
と思わず口にするアムロの気持ちも痛いほどわかる。それなのにフラウは自分の思いや期待をアムロにただただ押し付ける。
フラウ:いいかげんにしなさいよ アムロらしくない
アムロ:モビルスーツで戦う方がよっぽど僕らしくないよ!
「アムロの本質」は「メカオタクのエンジニア」である。パイロットでも何でもない。常にアムロアムロと名前を連呼してはやたらプライベートゾーンに入ってきて体を触ってくる。「そんなのアムロらしくない」「アムロらしい」などと連呼しまくる上に、
フラウ:この間の戦争で大人はみんな死んでるのよ 年寄りと若い人が戦わなくっちゃならないのはジオンだって地球連邦だって同じじゃなくて?
などとのたまうフラウをアムロが好きになるわけがない.....。「たくさん人が死んだからあなたが戦うしかない」と言っているがこれは言い換えると「次はあなたが死ににいかなくちゃでしょ?」である。
だからアムロは思わず言う。
アムロ:フラゥ・ボゥなら分かってくれると思ってたけど
フラウ・ボゥ「なら」というのは、フラウはアムロの幼馴染だからだ。自分の本質、「アムロらしさ」はガンダムのパイロットなんかじゃなくて、寝食忘れてメカをいじるところにある、それこそぼくらしさじゃないか。昔からアムロの近くにいて、アムロのことが好きで仲良くしてくれた、フラウならわかるはずだと。それなのにフラウは冷たく言い放つ。
フラウ:分からないわよ あのカイさんだってガンキャノンに乗るし / 覚悟決めた様子よ みんな
あのカイさんだってと言うのも失礼だし、「覚悟決めた様子よ」と軽く言うのもデリカシーがない。
今回の一連のやり取りを見ていれば完全に「フラウとアムロがくっつくのは.....ないな」と分かるはず。それくらい、フラウのアムロ理解は解像度が低い。
今週のガルマ
アムロは今回も、作中の他のキャラクターと対比させてその「身勝手」を描かれている。
ブライト:戦う理由がない点でアムロと同じだが、アムロと異なり「搭乗拒否」ができない。
カイ:アムロと同じくモビルスーツで戦闘し命をかけているのに、アムロと異なり「正規パイロット」扱いしてもらえず食料も明らかに少ない。
リュウ:アムロと同じ正規パイロットなのに、アムロと違って命令に従っている。
これらを足していくとアムロは「正規パイロットで待遇もいい=あのデブのリュウと同じだけ食わせてもらってるくせに、ガンダムパイロットという特権的な立場を利用してゴネてるガキ」という描写になる。
そしてもう一人、アムロと対比されているキャラクターがいる。そう、みんな大好きガルマ・ザビだ。「乗れ」と言われてるのにガンダムに乗らないアムロに対して、「乗るな」「戻れ」と言ってるのにガルマ・ザビは戦闘に出掛けていく。
https://gyazo.com/1b903140da68dd6cc9e097d24f6a9856
シャア:ガルマ 君が行くこともなかろうに え?
ガルマ:私には姉に対しての立場だってあるんだよ 家族のいない君にはわからない苦労さ
おそらくはお前らザビ家のせいで「家族がいない」男=シャアに対してのこの言葉。本当に一切デリカシーのかけらもない。そして「出撃するぞ!」と言った瞬間、アラートが出てシャアから、
シャア:ガルマ 発進は中止だ 戻れ!
ガルマがヘルメットをかぶったのは今回はじめてだ。それなのに「いくぜ!」と言った瞬間「行くな!」と言われるこのマヌケっぷり。本当にタイミングが合ってない、空回り=仕事できない男としてガルマは描かれている。
それでも出撃したが最終的にガンダムに翼をやられたガルマ。ガウまで誘導するからガウのビームで撃ち落としてくれ!と無線を入れるも、工作をして無線をわざと切っていたシャアたちに助けてもらえずガンダムを取り逃す。
対する連邦はマチルダ・アジャンが無線でガンダムに危険を知らせる。
https://gyazo.com/c4f5d5b1d23f9e7f9d026a5efa4e54d8
乗れと言われても乗らないが乗ったら無線で助けてもらえるアムロ vs 乗ろうとしたら乗るなと言われ無線で助けてもらえないガルマという対比になっている。
その他気になるシーン
https://gyazo.com/6b29abe0dbf8de75485a2f7c38a69646
いや、その倒し方はないやろ。
アムロに感謝するマチルダ
マチルダ:ありがとう あなたはエスパーかもしれない
これ、ここだけ見るとなんで「エスパー」って出るのか謎すぎるのだが、これはあれか。ニュータイプへの伏線なのかな。
「戦うからこそ男」という理由づけとして、勝利した結果、マチルダさんという女性に認められるという描写を入れてる。
ナレーション:一瞬の香りを残りしてマチルダは去った アムロにとってそれは初めて知った女性の香りであったのだろう
わざわざこんなナレーションまで入れて、フラウの「あかんべー」描写までしてる。
でも、これも結局「シャアが戦う理由だ」と言われてもフツーは理解不能だから、あくまで「ガンダムに乗れる男なら、ガンダムに乗れない女を、ガンダムに乗って守れ!」というデコイの理由をつけてるだけって個人的には感じる。
リード大尉と言われていたが、また「リード中尉」にもどった。
https://gyazo.com/27e1e548fb37e910a88c177df92b0ca3
次回 城之内死すかよ.....。あまりにもガルマの扱いがひどすぎないだろうか。
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